皆さんは「化学業界」と聞いてどのような企業、製品を思い浮かべるでしょうか?
いわゆるBtoBのビジネスを主とする企業が多く、製品が直接目に留まる機会も少ないため、あまり思い浮かばないという方も多いと思います。
しかし、実は化学業界は規模と影響力が極めて大きな業界であり、実に多彩な製品を世に送り出すことで現代の社会を様々な側面から支えています。
この記事の目次
化学業界の概要
はじめに、化学業界が何を作っているのか、そしてどれくらいの規模の業界なのかを解説していきます。
商品自体には馴染みはあるかもしれませんが、実際に商品ができる工程などの知識は少ないと思います。
ではみていきましょう。
化学業界はどんな製品を開発している?
さて、「化学業界の製品」と聞いて皆さんは何を思い浮かべるでしょうか?
身近な化学製品と言えば、洗剤、化粧品、医薬品等があります。
これらの製品は最終製品と呼ばれ、消費者が直接手に取る製品であるため、誰でも馴染みがあるかと思います。
しかし、最終製品は化学業界の製品の中では少数派であり、「中間財」と呼ばれる製品が大多数を占めます。
中間財とは私達消費者の手に渡る前の状態の財(製品)を指し、私達にとって身近でないことが多いです。
化学業界と言われてピンと来ない人が多い理由の一つかと思います。
化学メーカーが製造した中間財は別の化学メーカーとやり取りされ、また別の中間財に形を変えたりしながら、完成品メーカーで最終製品に形を変え、自動車、スマートフォン等の電子機器、洋服、プラスチック製品等として私達の手に渡ります。
もはや、私達が日々手にする物の大半が、化学業界と何らかの形で関わっていると言っても過言ではありません。
化学業界の規模
私達が日々手にする物の大半は化学業界と関わっています。
私たちの生活に根強く関わっている化学業界の業界規模が大きいことは、予想がつくと思います。
実際の業界規模を調べていきましょう。
- 従事者:約84.0万人
- 製造品出荷額:約48.5兆円
- 付加価値額:約16.3兆円
このように化学業界は日本有数の業界規模を誇り、日本のモノづくりの縁の下の力持ちとして活躍しています。(参照:平成26年度 経済産業省 工業統計調査 産業編)
化学メーカーの大手主要企業7社を紹介!
化学メーカーと聞いて、皆さんはどんな企業が思い浮かびますか?
下のリストには今まで耳にしたことがない企業も入っているかもしれません。
しかし、下記の企業の製品を使ったことのある学生も多いはずです。
どれも私達の生活に深く関わっている企業です。業界の主要企業7社を紹介します。
三菱ケミカルHD
生産性向上、競争力強化等を目的に2017年4月に三菱化学、三菱レイヨン、三菱樹脂が統合し、中核企業である三菱ケミカルが発足しました。
他にも、田辺三菱製薬、大陽日酸、生命科学インスティテュートを傘下に持ちます。
基礎化学品、電子材料、医薬品等幅広い製品を手掛け、バランス良く収益を上げるのが特徴です。
地球や人間社会のサスティナビリティを重視しており、これに貢献する技術開発や製品・サービスの提供に注力しています。
住友化学
経団連前会長の米倉弘昌氏の出身母体です。
海外売上高比率が60%前後と高いのが特徴的(三菱ケミカル、三井化学は40%強)です。
スマートフォンの部品等を手掛ける情報電子化学事業や、農薬や飼料を手掛ける農業関連事業が強みです。
積極的に海外投資を行っており、今後これを十分に回収できるかが焦点となっています。
富士フイルムHD
写真・映像関連製品の製造で、一般消費者にも名の知れた大手精密化学メーカー持株会社です。
傘下に富士フイルム、富士ゼロックス等を持ちます。
従来の主力である写真・映像関連製品はデジタル化の進行により市場が縮小傾向にあり、近年はこれらの事業で培った技術を活かした、高機能材料やヘルスケアの事業に注力しています。
写真のイメージが強い同社だが、健康食品や化粧品と言った製品も手掛けています。
旭化成
伝統的な化学工業製品のみならず、住宅、医薬品、電子材料等、幅広い事業を抱える大手総合化学メーカーです。
「サランラップ」等の日用品や、住宅事業の「へーベルハウス」等、誰もが一度は耳にしたことのある最終製品も数多く手掛けています。
三井化学
他の総合化学メーカー同様、多様な製品を手掛けていますが、汎用性の高い石油化学製品の比率が高めです。
これまで業績は低迷していたが、自動車関連事業、包装関連事業の好調や、石油化学事業の好況という追い風もあり、17年3月期決算では最高益を更新しました。
信越化学工業
時価総額日本一の化学メーカーです。
急速に業績を伸ばしており、営業利益は順調に増加しています。
総合化学メーカーと比較すると製品の幅広さでは見劣りするものの、塩化ビニル樹脂や半導体ウエハ等、世界トップクラスのシェアを誇る製品を数多く持ちます。
営業利益率が約20%と非常に高いのが特徴です。
花王
洗剤、化粧品、トイレ用品等、一般消費者にとって馴染みのある最終製品の製造で有名な大手化学メーカーです。
「アタック」「ビオレ」「8×4」など、誰もが知るトップシェア製品を数多く手掛ける一方、BtoBの工業用化学製品も取り扱っており、これが売り上げの約16%を占めています。
化学業界ランキング
化学業界の影響力の大きさは既に述べましたが、それを示す具体的な数値も欲しい所ですよね。
また、就職先を検討している方々にとって、企業がどのような事業を手掛けているかと同じくらい、業績の良し悪しや将来性は気になるところだと思います。
化学業界の売上は通貨レートや資源価格などの市況に影響されやすく、短期的なアップダウンはあるものの、世界経済の発展と連動しながら概ね順調に成長しています。
売上高(2017年3月期・連結)ランキング
- 5位:花王 1兆4576億円
- 4位:旭化成 1兆8829億円
- 3位:住友化学 1兆9542億円
- 2位:富士フイルムHD 2兆3221億円
- 1位:三菱ケミカルHD 3兆4323億円
今年は円高、資源安の影響で、去年よりも売り上げが下がる化学メーカーが多くなりましたが、長期的に見ると概ね成長軌道に乗っています。
売上高ランキングは三菱ケミカルHDが首位となりました。2017年4月から新体制がスタートしたので、今後も業績から目が離せません。
続いて、営業利益のランキングです。
営業利益(2017年3月期・連結)ランキング
- 5位:旭化成 1592億円
- 4位:富士フイルムHD 1722億円
- 3位:花王 1855億円
- 2位:信越化学工業 2386億円
- 1位:三菱ケミカルHD 2686億円
売上、営業利益ともに三菱ケミカルHDが首位となっています。
また、売上高ランキングではTOP5から漏れた信越化学工業が営業利益では2位にランクインしている点も注目に値します。
化学業界の仕組みや業界動向は?
現在、私達の社会を様々な側面から支える化学業界はこれからどのように変化していくでしょうか?
将来就職先として考えるとしたら、今後の動向は知っておきたいですよね。
一度就職した企業で長く活躍したいと考える学生も多いでしょう。
ここでは、市場の構造と、主な取り扱い製品の遷移について調べていきます。
現状の市場の構造
化学製品は実に多彩な種類の製品が存在しますが、これらは大きく二種類に大別できます。
- 基礎化学品
加工度と付加価値が低く、少品種大量生産を特徴とする
- 機能化学品
加工度と付加価値が高く、多品種少量生産を特徴とする
「基礎化学品」にはポリエチレン、ポリプロピレン等の合成樹脂、窒素や酸素などの産業ガスが含まれます。
加工のプロセスが比較的単純であるため、企業ごとの製品の品質に大きな差は生まれにくいのが特徴です。
その分、企業間の価格競争が激しくなる傾向があります。
各社とも原料のコスト削減、製造効率の向上に取り組んでいますが、収益を生みにくい事業になりつつあります。
新興国の化学メーカーは基礎化学品を主力事業に据えていることが多い傾向にあります。
一方、「機能化学品」は専門的な技術やノウハウを駆使しながら製造されることが多く、企業ごとの製品の品質にも大きな差が生まれやすいのが特徴です。
様々な用途に対応した極めて多くの品種の製品が存在するため、ある程度棲み分けがなされています。
その分、価格競争も比較的緩やかですが、ユーザーのニーズへのきめ細かい対応が必要になります。
基礎化学品から機能化学品へのシフト
これまで、日本の総合化学メーカーは基礎化学品と機能性化学品の双方を手掛けてきました。
しかし各社とも、価格競争力の高い「基礎化学品」を製造する新興国の化学メーカーとの厳しい価格競争を受け、国内のエチレンプラントを停止するなど、生産能力を段階的に減らしています。
代わりに、自らの技術的優位を活かし、各社の得意とする分野の「機能化学品」へとシフトする流れが生まれています。
まとめ
化学業界は実態がつかみにくく、なんだか良く分からない業界と思われてしまいがちです。
製品があまりに広範で、それらが複雑に絡み合っているから無理もありません。
加えて、化学はほぼ全ての製造業となんらかの形で関わっているため、化学業界の境界も曖昧です。
しかし、このような広範さや複雑さ、曖昧さは、この業界が私達の生活にどれほど大きく貢献しているかの表れとも言えます。
皆さんが少しでもこの業界に興味を持つきっかけになれば幸いです。